Story
山紫水明の都 東山と区内の人口減少
東山区は、南北は三条通周辺から十条通周辺まで、東西は鴨川と東山連峰にはさまれた、京都市でも有数の歴史と文化を誇る地域です。区内には、世界文化遺産である清水寺をはじめとした名所旧跡、美しいまち並みや文化を受け継ぐ花街があり、また祇園のような繁華街もあります。南部の地域には陶芸をはじめとするものづくりの職人たちが軒を連ね、また、琵琶湖疏水を運河として利用していた頃から工業も発展しています。南北に長いその地理的要因もあり、区内の面積以上に様々な顔を見せる魅力的なまちです。
世界有数の観光地として知られる東山区ですが、同時に避け難い問題も抱えてきました。現在、京都市にある11行政区のうち、もっとも人口減少が激しいのが東山区です。数十年にわたる人口の減少により、高齢化率、空き家率でも高い割合を示しています。
人口減少の背景には、「東山区は観光地であり、住宅地ではない」といったイメージがあるようです。また、「古くからある土地の繋がりに、新参者は入っていくことができないのではないか」、という不安もあるようです。観光地であるがゆえに不動産価格が相対的に高くなり手が届きにくいという課題も抱えています。他地域からの流入人口を増やすためには、こういった固定観念を払拭し課題を乗り越え、「観光地」という一時的な来訪先ではなく「定住するまち」としての東山区についての魅力を広めていく必要があります。
「お試し居住」とゲストハウス等
近年、IターンやUターンによる人口還流を模索する自治体などでは、「お試し居住」という制度を採用しているところがあります。移住・定住を検討している方々に、一時的にその地域の住民になることで、その地域に住む人々や周りの環境を体験する機会を提供する試みです。
「お試し居住」の先行事例では、お試し用の住居を用意することもありますが、既存のゲストハウスを利用するケースもあります。幸いにも、古くからの観光地である東山区には、旅人の宿として、文化の接点として、長く活動を続けてこられたゲストハウスが多数あります。
また、区内の空き家や共同住宅の空き室も、見方を変えれば、実際の生活を体験するフィールドとしての可能性を秘めています。
東山区という京都でも有数の観光地に暮らすことを、具体的に想像できる人は多くはありません。住んでみて、地域と関わってみてはじめて見えてくる東山区の魅力を、一時滞在を通して伝えること。地域によってさまざまな文化と魅力を有する東山区を知ってもらうために、地域に広く存在するゲストハウス等の皆さんに、ぜひ御協力をお願いしたいと考えています。
ゲストハウス等の皆さんには、お試し居住を検討している方々への、生活の場の提供と地域に溶け込むことができる企画等の仕組みづくりをお願いします。広報や企画検討は、東山区の区役所職員が共に行います。官民一体となってのお試し居住の実施を目指します。
求められる工夫
「お試し居住」は、観光ではありません。近所の食料品店で買い物をしたり、自治体のルールに沿ってごみを出したりするような、地域での生活の体験です。それらを通じた東山区の文化的空間と地域コミュニティの体験こそが東山区に住むうえでの魅力の体感であり、価格や利便性等の従来の目に見える居住地選びでは知り得ないポイントです。また、昔から住んでいる人と話す機会や、最近住み始めた人の意見を聞ける仕組み等をつくることで、「東山区に住む」ということをきちんと検討できるようにすることも求められます。
また、地域ごとのそれぞれの魅力を生かすためにも、東山区の全域のゲストハウス等に関心を持っていただきたいと考えています。それぞれの地域で、ゲストハウス等周辺の地域性を取り入れた企画を行い、居住を検討している方と地域のよりよいマッチングを目指す必要があります。
目指すのはまちの未来を作ること
今回のお試し居住の実証実験は、東山区の住民を増やすいくつかの試みのうちの一つです。お試し居住を通じて、東山区での居住を検討する人を増やすことが目的ですが、この実証実験を通じて、今後の新しい企画の在り方の検討も行っていくものでもあります。
「東山・まち・みらい計画 2025(第3期計画)」で掲げるまちづくりの理念は次のとおりです。
高い誇りをもって、「守るべきことは頑なに保守」し、
鋭敏な感性で、「変えるときは大胆に変革」し、
培ってきた知恵で、「時勢に応じて創造」すること
東山区は歴史のあるまちです。一方で、東山区をかたちづくる地域の方々は、伝統を踏まえつつ新しいものを取り入れ、このまちを発展させてきました。伝統と革新が息づくまち東山区の、未来を一緒に考えてくださる皆さんの御参加をお待ちしております。