インタビュ−「消防局×電力会社。新たな防災事業から見える公民連携の秘訣とは?」

令和7年度、公民連携プラットフォーム「KYOTO CITY OPEN LABO」(以下、LABO)で公募された、京都市消防局による「新たな防災」をテーマとした提案募集に、新電力会社のTERA Energy(テラエナジー)株式会社が応募されたことがきっかけとなり、新たな地域防災イベント事業「地獄レスキュー防災修行ラリー」が誕生しました。
TERA Energy株式会社は2018年に京都で僧侶4名によって創業され、寄付を通じて人を応援し、自然に優しい電力を供給する新電力会社です。今回は、テラエナジーから1名、京都市消防局の担当者3名、そして「よい根」の5名で、事業の振り返りとともに公民連携の秘訣を探るインタビューの場を設けました。
※開催日:令和8年3月16日(月)
インタビューメンバー
○TERA Energy株式会社
霍野 廣由 さん(TERA Energy株式会社 取締役)
○京都市消防局
吉田 英彦(消防団・自主防災推進室)
中田 由紀子(消防司令補)
北澤 由宜(総務部 総務課 広報係員)
○聞き手
前田 展広(株式会社よい根 代表取締役)
親子参加が少ない地域防災イベントに533名が参加
【前田】 昨年の3月頃、京都市消防局さんがテーマ型募集で「新しい防災」についての提案を募集されました。その際、地域の防災イベントに参加する親子世帯が少なかったり、体験メニューが「起震車」以外にあまりなかったりする、また地域単位で防災の機運や取り組みを広げていきたいといった目標を伺いました。
テラエナジーさんならきっと興味を持ってくれるだろうとお話ししたところから1年。ついに開催を実現されましたね。親子連れが多数参加されていたのが非常に印象的でした。実際、どのようなイベントになったのでしょうか?
【霍野】 最初に京都市消防局の方々のお話を伺い、子どもたちが心から楽しめる内容にすることが、結果として親世代も防災について考える大切な機会になると考えました。そこで、親子をターゲットにしたコンテンツを、前田さんやデザイナーの皆さんと一緒に練り上げていきました。
内容は、子どもたちが6つの修行(火・水・風・地・恵・心)を通じて、遊びながら防災スキルを学ぶスタンプラリー型のワークショップです。消火器体験や防災グッズ作りなどを通じ、いざという時の「自助・共助」の力を育むことを重視しながら、全体の枠組みを考えていきました。
これまでになかった、新たな防災コンテンツが形になり、非常にありがたく感じています。地元の自主防災会の方々も大変喜んでおられます。参加者のアンケート回収率も非常に高く、「家族で防災について話す機会が増えた」といったお声も伺っており、防災への機運が高まっていることを実感しています。
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*「地獄レスキュー防災修行ラリー」の実績
参加者数:533名(こども292名/大人241名)
・アンケートをお答えいただいた78世帯が「防災意識が高まった」と返答(100%返答)
・参加した98.8%の世帯へ”家族と防災について話す機運”を高めた
・参加した84.6%の世帯が、壬生寺周辺、朱雀第三学区周辺、中京区が「災害に強く安心して住める」と実感した
・参加した94.9%の世帯に、「定住」への前向きな効果があった
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【前田】 お寺で開催されたことや、複数の企業がブースを出店できるなど、非常に「参画性」の高い取り組みだと感じます。開催にあたって工夫された点や、実際にやってみてどのような発見がありましたか?
【霍野】 令和5年度に京都市と連携協定を締結し、市内の寺社仏閣に太陽光発電や蓄電池、省エネ機器の導入を促進する「お寺とお宮の発電プロジェクト」を始動しました。単なる設備導入にとどまらず、お寺が地域に対してもっと貢献できる機会を作れないかと考えていたんです。もともとお寺は地域の防災拠点であり、戸籍管理や寺子屋、駆け込み寺など、多岐にわたる公共の役割を担っていましたから。
【前田】 かつての京都の繁華街に、露天商の出店管理を担っていたお寺もあったと聞きます。お寺は地域住民の方々だけでなく、商業者とも非常に深い関係性があったんですよね。
【霍野】 ええ。ですから、お寺を「まちの核」と捉え、企業や地域が安全に、かつ防災をテーマに楽しめる場にしたいと考えました。「地獄レスキュー防災修行ラリー」では、お寺という場所を活かして「修行」をテーマに各地獄を巡り、鬼を改心させるというストーリーを設けています。
消防局や私たちだけでなく、地域の方々、防災ワークショップのノウハウを持つ企業や講師がそれぞれ出店できる枠組みにしました。消防局の皆さんとは、水消火器を活用して鬼を倒す「鬼の消火器ストラックアウト」を一緒に考案しました。テラエナジー側は、寄付先が選べる「かき氷屋」を出店。当日は予想通りの猛暑でしたが、こんなに売れるとは思いませんでした(笑)。
お寺ならではのプログラムですね、と好評だったのは「心の修行」です。防災への備えを説法と瞑想で伝えるプログラムなのですが、非常に暑い中、子どもたちが静かに耳を傾けてくれたのが印象的でした。自主防災会による「簡易トイレ製作ワークショップ」も、皆さん真剣に取り組まれていましたね。このイベントは、他の地域やお寺でも開催が可能です。
今までとは違うアプローチには、新しい発見があった
【前田】 テラエナジーさんが今回開催されたことで、新たな気づきがあったと伺っています。
【中田】 「鬼の消火器ストラックアウト」は、それこそ鬼のような行列で大変でした(笑)。これほど親子連れが集まったのは本当にすごいことです。一つのモデルケースになりますね。鬼のキャラクターやネーミング、お寺の世界観で統一されていたのも非常に良かったです。消防局にとっても、これまでにない地域へのアプローチ方法を発見する機会になりました。
【吉田】参加された皆さんが良い表情で楽しく過ごされていたのが印象的です。いつも我々が主催するイベントに比べ、体感として3倍は来場されています。子育て世代が多く参加されたという側面は、従来の防災行事にはなかった強みではないでしょうか。お寺は京都のいたるところにあります。この取り組みが京都中で広がる可能性を感じました。
【霍野】 テラエナジーとしては、地域での事業展開の大きなヒントになりました。当日、別の地域の自主防災会の方とお寺関係者が見学に来てくださり、現在、2026年秋の開催に向けてお話が進んでいます。その自主防災会の代表の方は商業ビルを経営されており、弊社の電力へ切り替えてくださいました。電気代を年間100万円ほど削減でき、さらに寄付先に防災活動団体を登録されたことで、今年は15万円程度の寄付が生まれる見込みだと、大変喜んでくださっています。地域に私たちのエネルギーを広げる、新しい営業活動の兆しが見えました。 あと、この取り組みが仏教専門情報誌の表紙も飾ったんです(笑)。お寺業界としても、地域と関わる画期的な事例だと取り上げていただきました。消防局さんとの出会いで、他に印象的だったのは「感震ブレーカー」の存在を教えていただけたことです。
【中田】 そうですね。現在、日本における地震後の火災原因の54%が電気関係と言われています。地震時に自動でブレーカーを落として住宅の電気を遮断する「感震ブレーカー」という安全装置があるのですが、その普及率の低さが課題となっています。今回、テラエナジー様のご協力により、電力契約先である商業ビルや寺社仏閣へ周知いただけたのは、非常にありがたいことでした。
【霍野】 感震ブレーカーを導入される方々は、きっと私たちが叶えたい未来に共感してくださる方々だと感じています。メーカーさんもご紹介いただき、自社の事業活動を広げる貴重なきっかけになりました。
よりよい公民連携、共創のヒントはどこにあるか?
【前田】 お互い、従来とは異なる新しいアプローチから新しい効果を得ることができました。ここには、これから公民連携に取り組む方々にとっても、多くのヒントがあるように思います。新たなチャレンジは仕事が増えたり、調整が煩雑だったりすることもあるかと思いますが、何が大切だったと思われますか?
【吉田】 当日に向けて多くの準備がありましたが、全く苦になりませんでした。「鬼の消火器ストラックアウト」の演出用に急遽カウントダウン映像も制作したのですが、現場での反応がとても良くて。人が喜んでくれることこそが、僕たちの「儲け」だと思うんです。松井市長が「人儲け」と表現されていた言葉が、まさにしっくりきます。 あと、直接的な利益よりも、その先の未来にある価値について想いが合致していたのが非常に大きかった。早い段階でその関係性ができたことで、物事がスムーズに進みました。やりたいことのベクトルが一致していたのが良かったですね。
【霍野】 まず、「公務員の方で、こんなにピュアに地域のことを想っている方々がいるんだ」という驚きがありました。地域との対話の場にも足を運んで顔をつないでくださり、大変助かりました。地域でゼロから信用を積み重ねるのは簡単ではありませんから。 まだ見ぬ事業に対して前向きに、好奇心を持って取り組むには、関わる人たちの「勇気」が必要だと思います。チラシのデザイン案をいくつかお出しした際も、「目的のために一番良い方法を一緒に選びましょう」と間に入ってくださり、結果として一番攻めたデザインが選ばれました。 自社だけで開発するのではなく、多様なセクターと構築することには難しさもあります。朱雀地域の方々と私たちだけでは、ここまで進まなかったかもしれません。消防局の応援やLABOの支援があったからこそ、形になったのだと思います。
【中田】 1人ではできないことも、様々な立場の人たちが関わったからこそ実現できた、ということですね。
【北澤】 私は消防局での「KYOTO CITY OPEN LABO」の窓口を担当していますが、この取り組みは手続きの面でも非常にスムーズでした。企業が自社の利益だけを追求したり、行政と組むこと自体が目的になってしまうと、やりたいことのベクトルが一致しにくいと感じます。また、企業と連携する際、地域などとの調整をすべて期待されるケースもありますが、テラエナジーさんは主体的に地域へ入ってくださり、消防局がそのサポート役に回るという、非常に良い役割分担ができていたと感じます。
【前田】 地域で事業を展開する場合は、社内言語だけでなく、地域言語、行政言語など、対象に合わせた「言葉遣い」や「姿勢」が大切ですよね。霍野さんはまさにその「バイリンガル」な感覚をお持ちだと思います。
【霍野】 普段、僧侶として活動していることもあり、地域のおじいちゃんやおばあちゃんとお話しする機会も多いですからね(笑)。地域の方々の想いやニーズを聞き受け、そのなかで私のやりたいこと、私にできることをデザインしていくことは、とても大切だと感じています。これから公民連携にチャレンジされる方も、関わる人や地域に合わせて、ぜひ提供の仕方や伝え方を「翻訳」しながら進めていただければと思います。
公民連携で大切なこと(まとめ)
- 取り組みの先にある「未来の価値」について、想いを合わせること
- 地域・行政・連携先、それぞれの立場に合わせた言葉や姿勢(多言語)を使い分けること
- 完成した商品やサービスを押し付けるのではなく、担当課と一緒になって地域に最適化させること
1時間ほどのインタビューでしたが、終始笑顔が絶えず、それぞれの気づきを語っていただきました。LABOに参加する企業側は、目前の課題や自社の利益だけでなく、地域の大きな理想にも関心を持ち、サービスをその土地に最適化させていく。同時に、行政側も企業が事業を展開しやすいよう全力でサポートする。 この「お互いに貢献し合う姿勢」こそが、公民連携において最も大切なことなのだと感じました。テラエナジー様、京都市消防局様、本当にありがとうございました。
<参考>地獄レスキュー防災修行ラリー https://bousai-rally.2-d.jp/
株式会社テラエナジーが地域と企画・運営する、お寺を舞台にした子供向け防災イベント。お寺を舞台にした6つの修行をめぐりながら、楽しく防災を体験できるスタンプラリーイベントです。ご関心のある地域やお寺のご担当者様は、直接テラエナジー様へお問い合わせください。(担当:霍野|TERA Energy株式会社)
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