歴史的建築物のデジタル化による保存・継承や建替えシミュレーションの実証
- 募集課題
- 歴史的建築物のデジタル化による保存・継承や建替えシミュレーションの実証
- 担当課
- 京都市都市計画局建築指導部建築指導課
- 採用企業等
- 山腰登記測量事務所、株式会社シュルード設計、地盤ネット株式会社

京都市都市計画局建築指導部建築指導課では、歴史的建築物の保存と意匠の継承、そして安全性の向上を両立させる建替え制度の活用促進を通じて、京都らしい町並みを未来へと受け継ぐまちづくりの推進を目指しています。
京町家をはじめとする歴史的建築物は、景観的・文化的に高い価値を有している一方で、増築や用途変更の際には建築基準法の適合が求められるため、従来の形態や意匠を保ったまま活用を継続するには大きな制約がありました。京都市ではこの課題に対応するため、『歴史的な価値を有する建築物について、建築基準法の適用を除外し、安全性の維持・向上を図る代替措置を講じることで、法の下では困難であった増築などの建築行為を可能とする制度』を設け、歴史的建築物の保存・活用を推進する独自の制度を整備しています。これまでにも一定の制度の活用実績があるものの、町並みの継承を推進していくためには、さらなる制度の普及と活用促進が求められています。
そこで京都市では、京都らしい町並みを継承させていくために、歴史的建築物の保存・継承や建替え手法の選択肢として本制度が更に活用されることを解決したい課題に設定し、民間企業の技術やアイデアを募集したところ、山腰登記測量事務所(所在地:京都市左京区、所長:山腰 昇士)、株式会社シュルード設計(所在地:京都市伏見区、代表取締役:安達基朗)、地盤ネット株式会社(所在地:東京都新宿区、代表取締役社長:荒川高広)の3社から下記のような解決策の提案があり、京都市として採用することを決定し、共にプロジェクトに取り組みました。
プロジェクトの概要
| 目的 | 歴史的建築物の保存と意匠の継承、そして安全性の向上を両立させる建替え制度の活用促進を通じて、京都らしい町並みを未来へと受け継ぐまちづくりの推進。 |
| 課題 | 京都らしい町並みを継承させていくためには、歴史的建築物の保存・継承や建替え手法の選択肢として、歴史的な価値を有する建築物の特例制度が更に活用される必要がある。 |
| 解決策 | 山腰登記測量事務所、株式会社シュルード設計、地盤ネット株式会社による歴史的な町並みの3Dデータ化により、歴史的建築物のデジタル化による保存・継承や建替えシミュレーションの実証を推奨すること。 |
| 成果 | ・歴史的な建築物や町並みの3Dデータ化を実現。
・3Dデータに関する知見及び現状把握を行うことができた。 |
プロジェクトのタイムライン
企業が提供した技術やアイデア
京都市が対象建築物の所有者と調整を行ったうえで、山腰登記測量事務所が建築物の計測を実施し、得られたデータを株式会社シュルード設計が可視化・保存した。その後、地盤ネット株式会社が活用しやすい様式になるようデータ加工を施した。
○山腰登記測量事務所
LIDAR測量器(NAVVIS VLX)、ドローン、RTK-GNSS測量器を使用した歴史的建築物等の測量を実施。対象物の形状や構造を高精度かつ立体的に把握する点群データを活用し、京都の歴史的な町並みを構成する建築物の保存・活用状態や、新たな建築物の設計が歴史的に調和するかどうかを評価した。
- 祇園新橋寄付物件の3Dデータ計測
- 膏薬辻子町並みの3Dデータ計測
- 市内の大型町家3Dデータ計測

○株式会社シュルード設計
建築物等のデータ取得及び3Dモデルによる可視化を実施。3Dデータ取得後の取り扱いや活用が困難な場合が多いことから、扱いの難しい点群を手軽に低コストで扱える点群ソフト「Clear points」及び3Dモデル活用ソフト「SpotPlan」を開発し、3Dデータ活用をサポート
- 祇園祭鯉山町家の3D計測及び3Dモデル作成(3Dスキャナとドローンにて計測し、専用ソフトでデータを処理)
- 点群閲覧ソフト「Clear points」の提供
- 3Dモデル活用ソフト「SpotPlan」の機能改修と提供

○地盤ネット株式会社
計測からBIM化まで行い、企画、申請、工事、維持管理まで3Dデータを活用できるように加工した。現状把握として3D測量後点群データを取得し、データを連結して、3Dモデルに意匠や主要構造部、仕上部などの属性情報を付加するBIM化を行った。
- 3Dモデル化技術(図面のない建物の3D化や図面化が可能になり、企画・設計・維持メンテナンスに活用できる)
- 3Dスキャンカメラ、BIM・CAD・加工ソフト、ハイスペックPCの提供
- 山腰登記測量事務所が測量した市内の大型町家3DデータのBIM化
京都市が提供したサポート
- 3D計測対象となる建築物の所有者や地域との調整(打合せ、地域協議会への説明、周知チラシ作成配布など)
- 3D計測に必要な諸手続き(警察署への道路使用許可申請等)
- 提案事業者間の調整、意見交換会の開催
歴史的建築物における実用性の高い3Dデータ基盤を構築
京都市都市計画局建築指導部建築指導課:向井
3社との連携により、京都の歴史的建築物や町並みの3Dデータ化を実施しました。保存活用制度や道路後退緩和制度を活用している建築物を対象に3D計測を行い、解体予定の建物についても記録保存を行いました。さらに、庁内PCでの3D計測データを閲覧できる環境整備や、データのBIM化も進め、実用性の高いデータ基盤を構築しました。
加えて、3社との意見交換会を実施し、3D計測業界の現状や技術動向を共有することで、今後の活用可能性についての理解を深めました。審議会への説明資料として3D計測データの活用が進んだほか、歴史的建築物の活用検討のためにBIM化データを提供する予定です。また、保存活用に慎重な事業者に対して、イメージして頂きやすいよう3Dデータを活用した提案を行い、保存活用に向けた前向きな検討を促してまいります。
今回の取り組みにより、3D計測の費用面・時間面・技術面での有用性が認識され、歴史的建築物の保存活用に向けた新たな手法として活用が期待できました。今後は、3D計測データや360度撮影情報などの三次元情報を蓄積し、将来的な利活用や滅失後の復元にも役立てられる体制づくりを進めます。
さらに、技術革新の進展により、取得データの3Dモデル化やBIM化などの二次利用がより容易になると想定されるため、今回の知見を多くの事業者や設計者と共有し、未来に備えた基盤整備につなげていきます。
歴史的建造物のスキャニングを通して当社の強みを再認識
山腰登記測量事務所 所長:山腰 昇士さん
当社ではレーザー光を用いて物体の距離を測定し、三次元空間内の物体の形状を計測する、3D LiDAR測量業務を行っております。令和5年より最新鋭のバックパック型LiDAR機器「NavVis VLX」を導入し、従来比10倍以上のスピードで鮮明かつ高精度な3Dデータを生成し、より正確な空間情報を提供しています。
今回の取り組みでは京都市の協力のもと、通常では許可取得が難しい歴史的建造物のスキャニングを実施できました。当社で生成する点群データは非常に高精度かつ情報量が多いため、スキャニングの目的や内容を物件所有者に説明し作業許可を得ることは民間企業単独では困難を極めます。京都市が物件所有者や関係機関に対して事業趣旨を丁寧に説明し、許可取得に向けた調整を担ってくださったことで、円滑な測量が実現できました。
取り組みを通して、当社のスキャニング技術が色調の再現性や点群密度において特に優れていることを改めて確認できたほか、解析プログラムの継続的なアップデートにより、データ精度が向上することを実感できました。また、歴史的建築物の高精度な点群データを生成するには、光源条件の整備が不可欠であることや、夏季の高温環境下では機器の誤作動リスクがあることなど、実証事業を通して当社のサービスの課題が明らかになりました。今回の取り組みは、2025年に開催される「けいはんな万博」において広く発信していきたいと考えています。
今後は、建築物単体から広域なエリアにまで当社の3Dスキャニング技術を展開し、高精度な点群データをベースとした情報プラットフォームの構築を目指しています。将来的には、点群データに市民や事業者などから寄せられる口コミや動画などの情報を共存させ、設計・景観・防災・映画ロケ地選定など多分野においてデータが活用されることを期待しています。
製品開発・展開につながる現場ニーズと高精度データを獲得
株式会社シュルード設計 代表取締役:安達 基朗さん
当社は3Dソリューション、ソフト開発、機械設計の3分野を軸に、「確かな品質をお客様の元へ。想いを現実に。」を企業理念として、顧客の要望に応じた製品づくりを行っています。主な製品として「点群をもっと気軽に利用して欲しい」という想いから開発したソフトウェア「Clear points」や、全天球画像を用いて現場の状況をしっかり把握した点検、保全工事が行える現場管理ソフト「SPOT360」などを提供しています。
今回は、歴史的な建築物の保存活用に直接関わる方と連携しながらツールを制作することで、実際のニーズなど需要情報の収集ができることや、京都市の新しい仕組みづくりを京都の企業が始めるという実績を残すことで、今後の全国への展開を見据えた顧客獲得の足掛かりになると思い、連携に至りました。
先進的なツールも利活用されないと、宝の持ち腐れとなってしまいます。今回は、「Clear points」による点群データ利用環境整備や3Dモデル活用ソフト「SpotPlan」による建替え等検討支援など、当社の技術を大いに活用することができました。
京都市が関与することで、単独では交渉が難しい対象施設の選定や調整がスムーズに進行できました。実証事業を通して、今後の取り組みに活かせるデータを取得できたことが大きな成果です。今回、歴史的建築物の現状や課題に関する知見を得られたことは、今後の製品開発や提案活動において非常に有益だと感じています。
実際に、歴史的建築物をどのような視点で捉え、建築指導等を推進しているのかなど、行政とご一緒しなければ知ることが難しいものであり、今後の事業につながる新たな視点や気づきを得る貴重な機会となりました。今後は、取得したデータを具体的にどのようなシーンで活用していけるかを整理し、より実用的な形で事業に落とし込んでいくことを目指します。
平安建都1200年のまちに技術を提供、今後の大きな訴求力に
地盤ネット株式会社 取締役副社長:伊東洋一さん、建築ソリューション部長:三好 多佳子さん
当社は、住生活エージェントとして、戸建住宅の地盤調査・解析を中心に、BIMを活用して完成後の建物の外観や内部を仮想空間上で立体的に再現し、実際に歩いているかのような視点で確認できる「パース・ウォークスルー動画」の制作を行っています。さらにマンション・商業施設・公共建築物へのBIMモデリング・図面作成など幅広く事業を展開しています。
今回の連携では、京都市の歴史的建築物を対象に、当社の3Dモデリング技術を提供する実証フィールドを得たことが大きなメリットです。加えて、社会貢献や建築DXの推進、条例や制度の普及・標準化といった取り組みにも寄与できる貴重な機会となりました。また、京都市や他事業者と連携することで、それぞれの知見を持ち寄り、ノウハウの相互活用による相乗効果も生まれたと感じています。
今回の実証を通して、歴史的建築物に対する3Dモデリングの実績と経験値を獲得できました。平安建都1200年という歴史と文化を背景にもつ京都市において、当社の技術を展開できたことは、今後、他自治体や民間事業者への技術訴求において重要な事例となり得ると考えています。
今後は、3Dスキャンデータの利便性向上を目指し、取り扱いの難しさやハイスペック環境が求められるという課題を解決すべく、日常業務に組み込みやすいサービスへの進化を図りたいと考えています。当社では、誰でも直感的に操作できる次世代型のスキャン手法を実現するため、撮影機器に4D-KanKanを用いて、点群撮影の「標準化・単純化・明確化」を推進しています。
また、測量やデータ採取からデータ変換、測量図面作成までをより迅速に行い、3D測量の進化と普及を目指しています。点群データやBIMを活用した製品を通して、歴史的建築物のDX化やスマートシティ構築に貢献できるデータ提供を進めていきたい次第です。
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