Story
2030年、2040年、2050年の理想の京都市を目指して
SDGs。この言葉を「聞いたことがない」という人は随分と減ったのではないでしょうか。持続可能な社会の構築のため、2015年に国連で採択された目標であり、多くの国や地域が賛同しています。SDGsの17の目標は、京都市基本計画と共通する点も多く、2030年までの達成に向けて、京都市も取組を進めています。
さらに京都市は、自然災害や人口減少をはじめとする様々な危機に、粘り強くしなやかに対応し、将来にわたって人々がいきいきとくらせる、魅力と活気に満ちた都市(=レジリエント・シティ)の実現を目指しています。どんな困難があっても、京都が京都であり続けるための、この取組期間の区切りとして2040年を設定しています。
また、2015年、パリで開催されたCOP21において、2050年に世界の温暖化ガスの排出を実質ゼロにすることで、国際的な合意形成がなされました。このパリ協定の下地とも言える、京都議定書の誕生の地である京都市は、率先してこの目標を共有し、2050年のゼロカーボンシティ達成を目指しています。
SDGs(2030年)、ゼロカーボンシティ(2050年)。これらの目標設定自体は京都市だけのものではありません。さまざまな都市が、取り組むべき課題です。そして京都市には、京都市なりの取り組み方として、レジリエント・シティ(2040年)があります。今回は、世界的な観光都市である京都市として、SDGs・レジリエンスツーリズムの仕組みづくりの模索を進めたいと考えています。
コロナ禍の今だからこそできること
コロナ禍以前を振り返ってみると、京都市はオーバーツーリズムによる問題に頭を悩ませてきました。観光客が集中することによる過度の混雑、マナー違反、散らばるごみ。地域住民の生活をおびやかすこれらの問題は、「多くの旅行客が来ることが、観光の理想的な状況でない」ということを私たちに突きつけました。
京都市の観光産業は新型コロナウイルスの感染拡大により、大打撃を受けました。インバウンド需要は激減し、国内の観光需要も厳しい状態が続いています。しかし、コロナ禍によって観光客が激減している今だからこそ、観光のありようを根本から見直すということができるのではないでしょうか。
地球環境に負荷を与える観光。地域住民の生活をおびやかす観光。旅行者にとってもその場限りの楽しさにとどまる観光——私たちは、このコロナ禍の状況を、これまでとは違う、新しいかたちの観光を模索する機会と捉えたいと考えています。今直面している危機を乗り越えた時、かつてのオーバーツーリズムの日常にただ戻すのでなく、よりよい観光のある日常に向かっていきたいのです。
未発掘のビジネスチャンスである「地域の問題」
SDGs・レジリエンスツーリズムでは、「旅行者が来れば来るほど、地域が良くなる」仕組みの構築を目指します。この仕組みの構築には、「地域の問題の可視化」が前提となります。
しかし、「問題の可視化」は、実は大変難しい作業です。とくに日々、現場で問題と向き合っていると、そこまで客観視することはなかなかできません。普段から持続可能性のことを考えていなければ、話し合いのテーマの中に、SDGsやレジリエンスの課題設定との共通項を見出し、ツーリズムのテーマとしての可能性を見出すことはできないでしょう。
「地域の問題」のなかには、「持続可能性の問題」を含んだものがあります。つまり「地域の問題」は、SDGs・レジリエンスツーリズムにおける魅力的なコンテンツになる可能性を持ち、それをうまく抽出することができれば、学びや気づきを促し、場合によってはそのままビジネスチャンスにもなりえるのです。今回の実証実験では、「地域の問題をSDGsやレジリエンスの観点から抽出する」段階と、「可視化された問題をツーリズムに組み込む」可能性を模索したいと考えています。
旅行者も地域も持続可能性に触れられる、学びの旅を京都で
旅行者の目的は、多くの場合、美しい景色を楽しむこと、おいしいものを食べること、めずらしい体験をすることであり、それらはともすれば一過性の経験に留まります。そこには「地域の問題」との接点は見つかりません。いったい、旅行者はどのように「地域の問題」にかかわることができるのでしょうか。
例えば亀岡市では、市の支援を受けて保津川遊船企業組合が企画した、「かめおか保津川エコna川下り」というツアーがあります。「保津川の川下り」は、たいへん著名で、年間を通じて30万もの観光客が訪れるコンテンツです。本来、峡谷の美しさを見せるはずの川下りですが、「かめおか保津川エコna川下り」では、あえて保津川の漂着ごみやプラスチックごみの現状を見せます。旅行者は、川下りを楽しみつつ、かつ「地域の問題」を自身の目でみることで、観光地の問題を「自分の問題」として持ち帰ることになります。また、地域の方々にとってもあらためて問題を意識するきっかけとなるでしょう。
楽しむ、味わうだけの旅行でなく、旅行者と地域がともに持続可能性やレジリエンスのヒントに出会う旅。世界の観光都市・京都だからこそ、この両立の難しいテーマにチャレンジする必要があると考えています。